中級以上のコーポレートファイナンスの書籍を読み始めると必ずでてくるのがROIC。
正直適当に流していた部分がありましたので、ここらで真面目に勉強してみました。
参考にしたのは最近巷で話題の「ROIC経営」です。
ROICとはROEと似て非なる
Return On Invested Capitalの略称で和訳は投下資本利益率。企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標。
一般的な計算式はROIC=(営業利益×(1−実効税率))÷(株主資本+有利子負債)。
企業は、株主から預かった株主資本(自己資本)と銀行などから借り入れた他人資本を投下して事業を行う。
株主資本に対する当期純利益の割合を示すROE(自己資本利益率)に対して、投下資本利益率は、他人資本である有利子負債も含む実質的な投下資本からどれだけ効率的に利益を稼いだかを測るための指標である。
要するに、事業の施策の効果測定をするとき、投下したお金って自己資本だけじゃなくて借金して投入した資金もあるよね、と。
それも含めてリターンが割りに合うのかを考えましょうというときの指標です。
ROEだと自己資本で投入した分だけしか考えていないので、他人資本まで考えたバージョンの資本効率がROICという理解でまずは良いと思います。
企業価値最大化のために欠かせない指標
ではなぜそのROICの考え方が大切なのか。
それは企業価値の向上を語る上で切り離せないからです。
ROICがようやく腑に落ちてきました。
— バフェット・コード (@buffett_code) 2018年4月1日
株主価値の最大化のためにはROE − 株主資本コスト > 0を目指す
→しかしROEは小手先で操作できるため、資産収益率部分だけを測りたい
→ROAはAに事業負債を含むため、完全に対応する資本コストはない
→ROICさんチッス
(ROIC − WACCの最大化を目指す) pic.twitter.com/UYQesPMgTF
補足すると、企業価値は残余利益モデルから下記の数式で表せます。
導出は紙幅の関係で割愛しますが、ご興味ある方は上記のROIC経営を読まれるとよくわかるかと思います。
数式をみてわかる通り、ROE - 株主資本コスト(これをROEスプレッドと呼びます)が正のとき企業価値が向上するということが確認できます。
再度ツイートに戻りまして、「ROEが小手先で操作できる」というのはどういうことかというと、財務レバレッジが高めるとROEも高まるので、借入を増やして意図的にROEを高めることができるということを指しています。
また一時期流行ったリキャップCBという手段でROEを操作することも可能です。
適切なレバレッジなら問題ないですが、身の丈に合わないような借入をしたり、金融工学的な小手先のテクニックでROEを向上させても、より本質的な収益力は何も変わらないということなります。
ですので、ROEではなく負債まで考慮した資本収益率であるROICを見るべきという考え方はとても自然な議論といえます。
その上でROIC経営で提言されているのは、従来型のP/Lを基にする「フロー経営」からの脱却であり、「ROIC経営」のススメというわけです。
売上や利益やCFを重視するのは「フロー経営」。
— バフェット・コード (@buffett_code) 2018年4月1日
すなわち「いくら儲けたのか」を重視する経営です。
多くの日本企業がこちら。
一方、利益やCFに加えて投資効率を重視するのが「ROIC経営」。
すなわち「元手をいくら増やしたか」を大切にする経営です。
前者の次の経営ステージが後者といえます。 https://t.co/4NH95zaTqB
バフェットも間違いなくROIC経営者だということが分かります。
— バフェット・コード (@buffett_code) 2018年4月2日
売上や利益の大きさにこだわるのではなく、「経営者はあくまで投下資本に対するリターンで評価されるべき」という考え方を、今から50年以上も前に、すでに実践していたというのですから驚きです。 pic.twitter.com/LCI9eAqycH
ROICつづき。
— バフェット・コード (@buffett_code) 2018年4月2日
では実際にどうやってROICを改善するのか。
そしてROICの差は何から生まれるのか。
それを知るためにはツリー状に因数分解して、ひとつひとつ検討してみると見えてくるかもしれません。
相対感で語られるべき指標ですので、競合他社も並べて比較しつつ分析したいところです。 pic.twitter.com/k4fpUx3aT7
余談:ROEスプレッドは本当に有効な考え方か
なおROEスプレッドの考え方についてはこちらの記事の反証は興味深いです。
https://twitter.com/buffett_code/status/980303684079767553
ROE > 株主資本コストならばOKというのが誤りだと思う理由は、一言で言うと時間軸の不整合です。
確かにROEは過去の数値であり、対して資本コストは将来の期待リターンである点には留意が必要ですね。
ただし個人的には、長期的な競争優位を持つ会社であればROEは比較的安定しており、中長期で予想ROEも過去実績に近しい水準であるとみなせますので、その場合は十分に議論に耐えると思っています。
もっとも、ROEは平均への回帰(すなわち高ROE企業は長期だと業界平均に収斂する)という論点もあるので、本当のところはわからないのですが。
最後に
ROEとROICと企業価値の関係はいつも注目の的で、とても多くの実証研究などがあります。
ネットで検索するだけでも、まーたくさんの企業が論文やレポートを書いています。
興味のある方はぜひともROIC経営やネットのレポートを読まれてみてはいかがでしょうか。
骨太の理論を身につけて一段上の投資家になるための良い勉強になるかと思います。