キャッシュ・コンバージョン・サイクル、いわゆるCCCをご存知でしょうか?
中級者向けの雰囲気ただよう財務指標なのですが、企業分析をする上でとても重要なので、今回はそのCCCについて少し触れてみたいと思います。
CCCとは
CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)とは、企業が原材料の購入や商品仕入れするために現金を投入してから、商品が売れて最終的に現金を回収するまでの日数のことです。
もっと簡単に言うならば、現金を投入してから再度現金で回収するまでの日数ということですね。
CCCは資金効率を見るための指標です。CCCは日数が短ければ短いほど、早く資金を回収できているということなので好ましいのです。
CCC自体の詳しい説明はこちらの記事(外部サイト)をどうぞ。
ターンアラウンドではCCCの改革が一丁目一番地
ターンアラウンド(事業再生)で最も重要なのが、不採算事業を立て直して短期間でキャッシュフローを改善することです。
ポイントは、欲しいのは会計上の利益ではなくキャッシュフローだということ。
ターンアラウンド着手前はボロボロの状態ですので、純資産は毀損していますし、とてもじゃないけど融資も受けられません。
そうした場合、黒字であったとしてもキャッシュフローが不足して倒産するケースが多いわけです。
なので会計上の利益ではなくキャッシュフローを高める必要があるというわけです。
キャッシュフローを高めるための重要な施策のひとつは、余分に滞留している資産をどんどん流動化(現金化)していくということ。
いつ売れるかわからない不良在庫をいつまでも倉庫に眠らせておくのは、一切収益を生まないキャッシュを無駄に倉庫に放置していることと同義です。
あるいは、たくさん商品が売れたとしても売掛金としてずっと滞留しているという状況が続けば、いつまでも現金が入って来ないために次の商品を仕入れできません。
そうした資産をどんどん流動化して資金の回収を早くできれば、すぐ作ってすぐ売ってすぐ稼げる状態になります。
財務体質の良好な企業ほどCCCの最適化をつねに研究しており、業界水準と比べても非常に優れた日数を叩き出しています。
以前、すかいらーくとスシローとチムニーっていうPE案件のMBO時と再上場時のいろんな数値をまとめたけどこんな感じだった
— 廣川航(`・ω・´) (@tosyokainoouzi) May 12, 2018
特にCCCは感動的だった
参考程度に pic.twitter.com/4qR4p07FoZ
ターンアラウンドでCCCは大事ですね。 https://t.co/p55Oyvs1rA
— バフェット・コード (@buffett_code) May 13, 2018
CCCを短くするためにまず取り掛かるのは、
・買掛金を増やす、長期化させる
・在庫量を最適化する
・売掛金の回収を強化する
です。
支払いはなるべく遅く、回収はなるべく早くを徹底するわけです。
ここで「在庫量の最適化」ですが、単純に在庫を減らすということではない点に留意が必要です。
在庫というのは多過ぎればもちろんキャッシュが滞留する原因となるのでダメですが、少なすぎても在庫切れを起こして機会損失が出るのでダメなのです。
これには正確な需要予測をする、必要な分だけ製造する、などの極めて高度なプロセス改善が必要になってきます。
CCCで透けてみえる競争力
CCCから読み取れるのは単なる回収プロセスの改善だけではありません。
もう少しイマジネーションを働かせてみたいと思います。
まず買掛金を増やすこと。
一般論として「次から現金支払いじゃなく掛け支払いにしてくれ」なんていっても「はいそうですか」とはなりません。
取引先としては、掛けにしたら踏み倒されるリスクが高くなるだけなので当然嫌がります。
そうした状況下でも掛け取引に応じてくれる取引先とはどんな会社でしょうか?
それは取引先にとってその会社がなくてはならない大口顧客だった場合です。
- いつも大きなロットで生産を委託してくれるので、他社にスイッチされたくない
- 長い付き合いで信頼関係がある
- 今後も売れ続ける商品であることに変わりは無いので引き続き生産を任して欲しい
このように「取引を切られたくない」と相手が思っていたら交渉力を発揮できます。
マイケル・ポーターのファイブフォース分析のひとつに「売り手に対する交渉力」というのがありますが、それです。
一旦まとめますと、買掛金を増やしたり期間を伸ばせる会社は取引先への交渉力があると考えられます。
では次に売掛金を見てみましょう。
売掛金は反対に当該会社が掛け取引に応じた場合のものです。
キャッシュ化をしたいならば売り掛けには応じず、なるべく現金商売に近い取引条件に転換します。
取引先に現金(あるいは短期の掛け)での支払いに切り替えてでも取引を続けたいと思ってもらえているということです。
では最後に在庫はどうでしょうか。
上述の通り、在庫は単純に少なければよいというわけではありません。
必要なときに必要なだけ手元に在庫がある状態が理想なわけです。
たとえば、
- あらかじめ必要な量がかなり正確にわかっていて、その分だけ作る
- 注文を受けてから生産する
という状態を指します。
これは言うは易し行うは難しの典型で、プロセス改善は競争優位に繋がるノウハウになります。
たとえば分かりやすいところだとトヨタのカンバン方式がそれにあたります。
こうしたことを踏まえて、過去につぶやいたアップルのCCCに関するツイートをご覧下さい。
今回も良い記事なのでシェア
— バフェット・コード (@buffett_code) May 13, 2018
アップルのCCCがー2ヶ月なのは驚異的...
購入者に商品を渡す2ヶ月も前に着金が済んでいるという異常な状況w
その他
>固定資産の割合は小さいが、他の製造業と同じように工程管理ができる
>借入により資金調達コストを下げており、今後ますますの自社株買いが想定される https://t.co/TREpV1Q08M
リツイ元の記事はこちらです。
アップル製品はプロダクトの競争力が強いため顧客は即金で買いますし、なんなら予約販売の時点で品切れになります。予約販売は商品を顧客に渡す前に手元にお金が入ってくるのでとても嬉しいわけです。販売戦略の一環でしょうが、新型の発売当初はいつも品切れで在庫が無い状態ですよね。
また、取引先はiPhoneの部品の大量受注が請けられるため掛け取引に応じますし、なんならその支払いも長期で待ってくれます。
その結果、なんとCCCがマイナスになるというわけです。
また製造業といえばここ、日本電産。
当然ながら日本電産でもCCCには本気で取り組んでいます。
やっぱ、製造業のCCC (キャッシュ・コンバージョン・サイクル)改善のインパクトは大きいなぁ
— バフェット・コード (@buffett_code) April 21, 2018
〉日本電産は、CCCを1年で85日から59日まで短縮しました。
〉これはつまり、CCCの短縮によって当時(2012年度)の26日分の売上高に相当する、約500億円の現金が生み出されたことを意味します。 pic.twitter.com/0nRXYgFOm4
「モノがよく売れるようになった」ではなく、錬金術のように手元のキャッシュを増やせるというのがCCCの改善のポイントです。
日本電産くらいの売上規模だと、CCCの改善だけで何も無いところから500億円のキャッシュがポッと湧いて出てくるのです。
500億円もあれば得意の企業買収が1件でもできそうですね。
まとめ
今回はCCCについてまとめてみましたが、いかがだったでしょうか?
地味な指標ではありますが、強い会社・大きな会社であればあるほどプロセス改善にしのぎを削っています。
それ専門の人材・部署があるくらいですから。
CCCは競争力の裏返しです。
ぜひ会社の競争優位を確認するときにはCCCも競合と比べてみてください。
あらたな分析の景色が見えてくるはずです。